春秋余話 ― 冬には冬のよさがある

春秋余話

どんなに寒い冬でも、やがて春は来る。

昔から、苦しい時期に人を励ます言葉としてよく使われます。

私も、この言葉に励まされたことがあります。

つらいことがあっても、ずっとこのままではない。冬が終われば、いつか暖かな春が来る。

そう思うことで、もう少しだけ頑張れることもある。

けれど歳を重ねて、最近は少し違うことを考えるようになりました。

春が来ることだけを待たなくてもいいのではないか。

冬には、冬のよさがある。

人生も、案外それと同じなのではないかと思うのです。

春ばかりが、よい季節なのだろうか

春になれば、桜が咲く。

暖かな風が吹き、草木が芽吹き、長かった冬が終わったことを感じます。

春はたしかに心地よい季節です。

しかし、一年中ずっと春だったらどうでしょう。

夏の強い日差しもない。

秋の澄んだ空もない。

冬の張りつめた冷たい空気もない。

そう考えると、春が美しく感じられるのは、その前に冬があるからなのかもしれません。

そして冬そのものにも、冬にしかない美しさがあります。

冷たい朝の空気。

音まで吸い込んでしまうような雪の日の静けさ。

寒い日に帰った家の暖かさ。

湯気の立つ食事。

人の温もり。

春を待ちながら過ごす冬も悪くありません。

人生にも季節がある

人生にも、季節のようなものがあると思います。

何をやってもうまくいく時期がある。

反対に、どれだけ動いても思うようにならない時期もある。

人に恵まれるときもあれば、人との関係に悩むときもある。

自信に満ちている日もあれば、自分の力のなさを思い知らされる日もある。

海にたとえるなら、穏やかな凪の日ばかりではありません。

風が吹き、波が立ち、ときには大きく揺さぶられる。

けれど、海がいつまでも荒れ続けることがないように、人生も一つの状態だけが永遠に続くわけではありません。

良いときも巡る。

悪いときも巡る。

それが自然なのだと思えるようになりました。

苦しい時間を、美化する必要はない

だからといって、私は苦しいことを「ありがたい」と無理に思う必要はないと思っています。

冬が寒いことに変わりはありません。

つらいものは、つらい。

悲しいものは、悲しい。

苦しいときに「これは自分を成長させるために必要なのだ」と無理に意味をつけようとすると、かえって苦しくなることもあります。

冬の日に、寒くないふりをする必要はありません。

寒ければ、寒いと言えばいい。

暖をとればいい。

少し休めばいい。

そして、その中に小さなよいものが見つかったなら、それを大切にすればいい。

人生の冬も、それくらいでいいのではないでしょうか。

春を待つことと、今日を生きること

「いつかよくなる」

そう信じることは、とても大切です。

けれど、未来の春ばかりを待っていると、今日という一日が「春までの我慢の日」になってしまいます。

私は、それが少しもったいないと思うようになりました。

仕事がうまくいったら幸せになる。

お金ができたら幸せになる。

問題がなくなったら幸せになる。

あの悩みが解決したら。

もう少し環境が整ったら。

そうやって条件を一つずつ付けていくと、私たちはいつまでも「これから来る春」を待つことになります。

けれど人生は、その春を待っている今日も確実に進んでいます。

ならば、冬の中にも今日のよさを一つくらい見つけられた方がいい。

それは大きな幸せでなくてもいいのだと思います。

よく眠れた。

温かいものがおいしかった。

誰かと笑った。

空がきれいだった。

今日も一日を終えられた。

そんな小さなことで十分です。

「虚心平気」という言葉

私は「虚心平気」という言葉が好きです。

心を空しくして、平らかな気持ちでいる。

言葉にすれば簡単ですが、実際にはなかなかできません。

うまくいけば有頂天になる。

うまくいかなければ落ち込む。

人から褒められれば喜び、批判されれば腹が立つ。

私自身、そんなことの繰り返しです。

だからこそ、この言葉に惹かれるのでしょう。

人生の春に浮かれすぎず、冬に絶望しすぎない。

晴れの日には晴れの日を過ごし、雨の日には雨の日を過ごす。

凪の日も、高波の日も、その時々を受け止めて生きる。

そんな心持ちでいられたらと思います。

冬には冬のよさがある

若い頃は、人生はずっと右肩上がりに進むものだと思っていたところがあります。

努力すれば前へ進む。

頑張れば結果が出る。

昨日より今日、今日より明日。

もちろん、そういう時期もあります。

けれど、長く生きていると、人生はそんなに一直線ではないことが分かってきます。

進むこともあれば、立ち止まることもある。

手に入れることもあれば、失うこともある。

出会うこともあれば、別れることもある。

それでも季節が巡るように、私たちはその時々を生きていく。

春だけが人生ではありません。

夏もある。

秋もある。

そして冬もある。

どんなに寒い冬でも春は来る。

それはたしかに希望のある言葉です。

でも今の私は、そのあとにもう一言つけ加えたい。

春を待ちながら、冬には冬のよさを探してみよう。

人生のどの季節にいるときも、その日を生きていることに変わりはありません。

いつか訪れる春だけではなく、今ここにある季節も大切にする。

そんな心で歳を重ねていけたらと思っています。

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